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これは私が、誰とももう一緒にならない証。 あの時の、あの人以外、私はもう愛せない。 それに不倫をしたのは自分だから、あの人以外の誰かを今更求める権利も無い。 そう思って、私は自分でこの結婚指輪を買い「パパが生きていた頃に買ってくれたものだよ」と和磨に言って、これをずっとつけている。 「パパ走るの速かった?」 「速かったよ。パパは運動好きだったから」 私はそう言ってからフロントミラー越しに和磨と視線を合わせ「和磨はパパに似たんだね」と微笑んだ。 私は走るのがすさまじく遅いから、和磨の足が速いのはあの人の遺伝子だ。 「来週の運動会、楽しみにしてるからね」 私が言うと、和磨は「まかせて」とでも言うようにニヤッと笑った。 この自信満々の顔をした時の和磨は、本当にあの人に似てる。 「あ、ママ」 「うん?」 「浦部さんは、運動会来れない???」 和磨から出た予想外の言葉に、私は保育園を曲がる交差点で出すウインカーを忘れそうになる。 「浦部さん……?」 「うん…!浦部さんにも来てほしいなって」 和磨は私をフロントミラー越しにじっと見つめる。 「浦部さんは来れないよ。 お仕事あるし……」 「おやすみ取れないの? はると君のパパはお仕事お休みしてくるって言ってたよ!」 「浦部さんはパパじゃないもん…! ……それに…… ……ママが浦部さんと和磨の運動会に行ったら、パパやきもち妬いちゃうよ」 自分で言って、なんで馬鹿な事を言ってるんだと、恥ずかしく思う。 あの人は私にやきもちなんて妬かない。 俳優という仕事柄、好きでも無い女性と平気でキスもするし、ベットシーンだってこなす。 そもそもあの人はもう、私をこれっぽっちも愛していない。 「パパはやきもち妬かないよ! ママパパの事「優しい人」って言ってたじゃん!」 和磨は珍しく食い下がる。 いつもならすんなりと諦めてくれるのに、余程運動会での活躍を浦部さん見てほしいのか、和磨はチャイルドシートから身を乗り出している。 「まず、聞いてみて! 浦部さんに、ぜったい! ママ聞かないなら、ぼく聞くから!」 私が聞かない事を見透かしたかのように言われ、私は和磨をちっちゃい大人の様に感じた。 子供は時々、大人の私達より小さい大人になる。 小さくて、正しい大人に。 「わかったよ…もう…… 浦部さんに話してみるね」 私は困ったようにそう答え、保育園の駐車場に車を停める。 和磨の嬉しそうな顔がフロントミラーに映る。 私はそれから、無意識に目を逸らした。 かつて私が大好きだった、運転するあの人の横顔を思い出してしまう。 黒くてくしゃくしゃの髪に、小さい顔が、横顔だとより引き立って見えた。
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