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和磨の手を引いて、保育園のクラスまで和磨を連れて行く。
和磨のリュックとお昼寝のお布団を先生に手渡し、連絡帳を所定の位置に入れる。
最後はクラスの窓際で、和磨とじゃんけんぽんをしてバイバイする。
これがいつもの、保育園での私と和磨の日課だ。
私はそこから20分ほど車を走らせると、浦部さんのお店に到着する。
浦部さんのやってる雑貨屋の「エテ」は、手作りのアクセサリーだけではなく、食器や革小物、文房具やマグネットなど、色んなものを販売している。
「おはよ」
エテの従業員入口から入ると、先に来てた浦部さんに声をかけられた。
長めの髪は個性的だけど、浦部さんに良く似合っている。
肩にかかるくらいの長さのこの髪型は、私と最初に出会った頃から、ずっと変わっていない。
「おはようございます」
私は一礼して、ロッカーに自分の鞄を入れ、お弁当と水筒を冷蔵庫に入れる。
「和磨君、元気に保育園行った?」
「はい。来週の運動会、1番になるんだって張り切って行きました」
答えて、さっき和磨から言われた事を思い出す。
浦部さんが、運動会に来れるかどうか。
「浦部さんにも、来て欲しいみたいで」
それとなく、なんの気も持たないように意識してこれを伝えるのは、なんだか難しく、私は自分の言い方に違和感を覚える。
まるで私が何か下心でもあるんじゃないかと思われるのではないかと、変な力が入ってしまって、自然な風に言うのが難しい。
あの人なら俳優だから、もっとサラリと、上手くこの言葉を伝えられるんだろうか。
普通のドラマも、あの人が出るドラマも、私は見ないから知らないけど、どうなんだろう。
それともプライベートと仕事でのお芝居はまた別物なんだろうか。
「僕に?」
「はい」
答えて、私は微笑んで見せた。
それ以外に、なんて言えばいいか、直ぐには思いつかなかったから。
「行ってもいいけど」
「ーーーーーーー」
予想外の答えに、声が詰まる。
行ってもいいけど。
「ーーーあ…運動会、来週の土曜日で…!
お店ありますし、いいですよ…!
全然無理しなくてもーーーー
……ごめんなさい、なんか来てくださいみたいに聞こえちゃったら…」
私は思いついた事を、慌てて一気に喋ってしまう。
だって絶対変に思われる。
私はシングルマザーって事になっているのに、浦部さんと運動会に行くなんて。
「ーーーーあ…琴葉ちゃん、嫌なんでしょ」
「いや…そんな事ないですけどーーー」
「嘘だね。顔に書いてある」
「え、いや、本当にそんなわけじゃ……」
私は慌てて否定する。
嫌じゃないけど、周りの人達ーーー
同じクラスの保護者の人とか、保育園の先生達からどう思われるかを気にしてしまってる。
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