スタアたち

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 ぼくが初めてスタアを見たのは小学二年生のときで、下校の途中だった。流行りのゲーム機を持っていないせいで、ぼくは遊びの輪からはずされて一人トボトボ歩いていた。そんなとき、大人たちが「スタアだ!」と叫びながら空を指すので顔を上げると、四、五階建てのビル群の屋上を若い男が走っていたのだ。 「待てえ!」「コノヤロ!」  青年は、角材やチェーンを持ったなチンピラの一団に追われている。彼はビルを飛び移って逃げ続けたが、やがて通りの端まで来てしまった。彼の背後にチンピラたちが迫るのを見て、ぼくは思わず叫んだ。 「危ない!」  その瞬間、青年はビルから身を投げた。  あまりにあっさり飛ぶので、舞空術を使えるのかと思ったほどだ。だが彼の体は垂直落下して各階の窓にかかっていた日よけ布を次々に引き裂き、真下に停まっていた果物の移動販売車の荷台に突っ込んだ。  悲鳴が上がり、通りの人々が販売車に駆け寄る。ぼくも夢中で大人たちの間をすり抜けて最前列に出た。あたりには果物の破片が散らばり、荷台に積まれていたダンボール箱の山はひしゃげていた。  ものすごい光景にぼくらが固唾をのんでいると、ダンボール箱の山が湿った音を立てて荷台から落ちた。その隙間から先ほどの青年が出てきて、さっと地面に降り立った。とても二十メートル近い高さから落ちたようには見えない。彼は服を適当に払うと、口をあんぐり開けているぼくに気づいた。 「(ハオ)()!」  と、言ったのだと思う(後で調べた)。それからニッコリ笑い、走り去った。彼が角を曲がって完全に見えなくなると、ぼくはビルを仰ぎ見た。日よけ布の穴から青空がのぞいている。  この日から、ぼくはすっかりスタアに魅了されてしまった。
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