スタアたち

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 スタアは高所から落ちてくる。建物から飛び降りるだけでなく、何千メートルもの高さからパラシュートやグライダーを使って滑空してくることもある。  そうしてごみ袋の山に突っ込んだり、木の枝に引っかかったりしながら着地する。最後には必ず立ち上がり、去って行く。飛行機に乗ったまま冬山に墜落し、雪だまりの中から出てきたスタアもいる。ごみ袋や雪だまりにそれほど衝撃吸収能力は無いはずだが、見た目の説得力が増すのであえてスタアはそこに落ちてくるのだと専門家は考えている。  ぼくはスタアの出現情報を片っ端から集め、高校生になるとバイト代をつぎ込んで『スタア待ち』をするようになった。次にスタアが現れそうな場所に出かけて行って張り込む、いわゆる出待ちだ。  スタア待ちをする人は結構いて、ぼくらはすぐ顔なじみになった。中でも市丸(いちまる)さんという男性は、住んでいる場所が近いこともあり遭遇率が高い。  市丸さんは二十代後半だが、ニートなので一日中実家にこもってスタアの情報を集めているらしい。大学に入り自由時間が増えると、ぼくは情報通の市丸さんとつるんでスタア待ちするようになった。 「スタアって、どこからやって来るんでしょうね」  スタア出現の噂を聞きつけたぼくたちは、どこかの金持ちのパーティーに潜り込んでいた。折しも飛んできたヘリコプターの縄ばしごに、ブラックタイ姿のダンディなスタアがしがみついている。華麗なフォームで屋外プールに着水するスタアを一眼レフで撮影し終えると、市丸さんはようやくぼくの質問に答えた。 「その筋の話では、スタアが出現する瞬間に時空が歪むらしい」 「マジですか? 時空の歪みって、どういう……というかってなんですか」 「詮索はやめとけ。知らぬが花だぜ」  あ、この人もわかってないな……。というぼくの目つきに、市丸さんはわざとらしく肩をすくめた。 「考えてもしょうがないってこと。スタアは自然現象みたいなもんだからさ」 「こっちの都合はお構いなしですもんね。物も壊すし」 「はは。おれは、スタアのそういうあり方が好きなんだけどなあ。スタアの突き抜けてるところが。見てるとほら、なんか明日も頑張ろうっていう気にならない?」 「頑張るも何も、ぼくらニートと不良大学生ですけど」  ぼくのツッコミに、市丸さんは「それを言うなよ~」とクネクネした。とはいえ、市丸さんの言葉は真理である。あの日飛び降りてきた青年は、その存在だけでぼくを元気にしてくれたのだから。スタアたちが地球と引き合う謎の引力は、ぼくらのことも引き寄せて離さないのだった。
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