スタアたち

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 ひと月後、市丸さんは亡くなった。スタア待ちをしている最中のことだった。 「周りに何もない小麦畑だから、久々にパラシュートを使うスタアが見られるかもしれないんだ。いやあ、とっておきのネタなのになあ」  バイトシフトを融通できず歯噛みするぼくに、市丸さんはニヤニヤしながら言ったものだ。だが、その場所に落ちてきたのは全くの想定外――銀色の円盤だった。円盤は牧草を積んだトラックの上に猛スピードで墜落すると、トラックごと周囲のおよそ三ヘクタールの小麦畑を燃やし尽くしたらしい。  衛星画像を確認した結果、円盤から出てきて立ち去る人影が発見された。ぼくはその画像をニュースで繰り返し見た。銀色の全身タイツのような服を身につけ、焼け野原を歩いていく誰か。  その人影は本当にスタアだったのか。実は宇宙人の侵略、もしくは軍事演習の失敗を隠蔽しているのではないかという憶測が世間を飛び交ったが、様々な検証の結果、人影はやはりスタアであるという結論に達したようだった。 「良かったよ、宇宙人じゃなくて。スタアに殉じたなら本望だ」 「でも、あの人は気づかなかったんでしょうか。市丸さんたちがいたことに」 「おいおい、前に言ったろ? スタアは自然現象みたいなもんだって。おれは彼らのそういうあり方が好きだったんだ」 「市丸さん……」 「まあ、気にしないでよ。人生楽しみな? あと、ニートにはなるなよ」  一度、そんな会話を夢に見た。スタアびいきの市丸さんが言いそうなこと、でもぼくが都合よく解釈しているだけかもしれない。  事件後、国はスタアに近づきすぎないようにという勧告を出した。スタア待ちに対する世間の目は冷たくなり、集まる人の数も減った。だが、ぼくはスタア待ちをやめなかった。  スタアに触れたい。ぼくはそう思うようになっていた。物理的な接触でなくても、ぼくという存在に反応してくれるだけでいい。いつかの青年のように、笑いかけてくれるだけで。スタアがただの現象ではなく、血の通った存在なのだということを確認したかった。  あっという間に駆け去ってしまうスタアのために、ぼくは手紙も用意した。 『あなたたちはどういう人なのですか。  あなたたちはどこから来たのですか。  ぼくはあなたたちのファンです。』  末尾にぼくの名前と連絡先も入れ、ネットの翻訳ツールを使って三か国語に訳してある。だが市丸さんの情報網を失った今、スタアに遭遇する機会はなかなか訪れなかった。
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