スタアたち

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 就活の時期を迎えると、スタア待ちに費やす時間はさらに減った。不良大学生といっても、市丸さんほど振り切って生きられないぼくは次の帰属先を探す必要があるのだ。  大きなビルの二十階で、他の学生たちに混じって企業説明会に参加する。室内の空気は生ぬるく、ぼくはすぐ放心状態に陥った。  就職したら、スタア待ちをするのも止めてしまうかもしれないな。採用担当者が社風や仕事のやりがいや求める人材について話すのを聞き流しながら、考える。働いて、できれば結婚もして。そうなれば、スタアのことは迷惑な自然現象……いや、自然災害くらいにしか考えなくなるかもしれないな。それが、大人になるってことなのかもしれないな。  そのとき、くぐもった爆発音とともにビル全体が小刻みに揺れた。  どこか上方で非常ベルが鳴っている。学生たちは不安げに顔を見合わせ、採用担当者は話を止めてレーザーポインタを置いた。 「状況を確認してきますから、皆さんはここで待機を……」 「スタアだ!」  窓際の男子学生が叫んだ。ガラス張りになった壁の向こう、ビルとビルの間に広がる空間を、ロープにつかまった何者かが高速でこちらに近づいて来る。スタアは横から突っ込んでくることもあるのか! ぼくは思わず興奮して立ち上がった。しかし、あのロープはいったいどこから吊っているんだ?  数秒遅れてスタアが壁に激突し、ガラスをぶち破った。衝撃でぼくの疑問は吹き飛び、壁際に近づきかけていた採用担当者も吹っ飛んだ。  乱入者は女性だった。全身に(すす)がこびりつき、ワークパンツに革のブーツ、上半身はなぜかタンクトップ一枚の軽装である。彼女は華麗な受け身で着地したかと思うと、ひとくくりにした髪をなびかせて部屋から走り去った。 「チャンスだ、追え!」市丸さんの声が聞こえた気がして、ぼくは慌てて部屋を飛び出した。スタアを追いかけるのはこれが初めてだ。手にはいつの間にか、カバンの中に未練たらしく入れていた手紙を握りしめている。  スタアは移動しながら追っ手と交戦しているらしい。前方からは物が倒れる音、ガラスが割れる音、「バキッ」「ドカッ」という謎の音、発砲音、エンジン音、叫び声、うめき声、その他あらゆる暴力的な音が聞こえてくる。さらに進むと、廊下のところどころに敗れた追っ手たちが倒れていた。そういえばスタアの追っ手について説明していなかったが、それはまあどうでもいい。
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