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1  百人以上の報道陣の熱気の中、新聞社の記者が丁寧だが容赦のない口調で口火を切った。 「今回の資産家子息拉致疑惑についてですが、資産家子息からマスコミ各社に被害を訴えるファックスが届いています。ファックスの内容によれば加害者は小鳥教団と教祖のサコタノブオ氏だという話ですが、事実関係をきかせて下さい」  フラッシュを浴びながら右端の椅子に座った若い男が、やや長すぎる間をおいてからゆっくりとこたえる。 「広報担当の、スガヌマと申します。えーー、今回の件ですが、拉致などという事実は、いっさいございません。ファックスを送ったという資産家子息は、確かに我々の仲間ですが……現在、我々も彼とは連絡がまったく取れない状況で、一体どうなっているのか、非常に心配しております」 「ファックスを送った後に、もう一回あんたらに監禁されてるんじゃないのか!」  別の記者が大声でいうが、スガヌマと名乗った男は落ち着いた口調で返した。 「そのような事実はございません」  報道陣の前方には長テーブルがひとつとパイプ椅子が三つ置かれている。三つの椅子の右端にスガヌマが座り左端の椅子には若い女が座っているが、中央の椅子には誰も座っていない。テーブルの右脇に三人、テーブルの左脇に四人の若い男が立っている。全員が二十代の若者で、立っている男達はみな直立不動の姿勢で斜め上の虚空を睨みつけていた。  少し間をおいてから、スガヌマはゆっくりと言葉を続ける。
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