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 スタジオに戻り、中年の男性キャスターが神妙な面持ちで話し始める。 「キトウヨシノリさんのご家族のお気持ちを思いますと、一日も早い解決が望まれます。今回の件について、警察の初動に問題があったのではないかとの指摘もありますが、そのあたりについてはどうでしょうか? ヤマダさん」  キャスターの斜め前のコメンテイター席に座っている五十がらみの男が口を開く。 「そうですねぇ……」 「あのバカ」テレビの前でスガヌマがつぶやいた。「印象に残りやすいように行動しろとは言ったけど……これじゃ奇行だろ」  テレビ画面の中ではヤマダさんが真剣な表情で話し続けているが、テレビの前にいる四人の男女は聞いていない。  先日の記者会見でテーブルの脇に立っていた若い男がスガヌマの隣でこたえた。 「ほんま、温泉、北海道って、そのあとたぶん沖縄で泳いでるな」  記者会見で左端の椅子に座っていた女がいう。 「気温差大き過ぎて体調崩してまうんちゃう」 「そういう問題じゃなくて。追い詰められてる感じがないんだよ」  スガヌマが真剣な表情でいうが、隣の男は気楽そうにつぶやいた。 「でもまぁここまでは怖いくらいうまいこといってるよなぁ。ヨシノリのおかんはぜんぜん心配してなかったけど、それ以外はだいたい計画通りに来てるでな」  スガヌマも表情を緩めてうなずいた。  その横で、先日の記者会見にはいなかったもう一人の女がボンヤリと座っている。
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