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「話戻すけど、神の存在を信じる人は減ったしそういう意味では宗教というのはその社会的役割を終えつつあるとも言えるわ。宗教が人々を人生の最後まで騙しきってあげるべきものだとしたら、それを求める人は減り続けてる。かわりに宗教の劣化版である愛を信仰する人が増えただけなんだけど、とにかく宗教組織は力を失いつつある。でもね、宗教の役割はそれだけではないの。なんていうか、大衆ってのはさ、独善的なものでしょ。たとえばハリウッド映画ってどれも勧善懲悪だけど、じゃあ何をもって正義としてるかっていうと、単純に自分の属してる側が無条件で正義なのよ。とにかく自分が正義なんだと思ってる観客が、とにかく自分が正義なんだと思ってる劇中の主人公に感情移入してるだけなのね。大衆ってのはそういうもんなの。そういう悪いことは何でも他人のせいにする独善的な大衆をダマしたりスカしたりして、世の中をなんとかまともな方向に運ぶためにはまだまだ宗教の力が必要なのよ。政治家なんかにそんな力があるわけないし、本当に何でも多数決で決めてたら大衆は聞こえだけよくて実現不可能な選択肢ばっかり選びたがるし、官僚が密室で決められることにも限界があるし。だからやっぱりどうしても宗教の力が必要になるの。既存の宗教が力を失ってその役割を果たせないなら、新しい宗教で補うしかないでしょ」
ミチオは黙ってマナの話をきいている。
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