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 左の椅子に座っている女や、テーブルの両脇に立っている男達も、全員がテーブル中央にある無人の椅子のあたりを見つめる。彼らはそれぞれ、ゆっくりとうなずいたり優しくほほえんだりしながらも真剣な表情で中央の空間を見つめている。椅子に座っている男女も立っている男達も全員が温もりに満ちた優しい目つきで中央の空間を見守ったまま、何度もゆっくりとうなずいている。  百人を超える報道陣は何かが始まるのを待つが、長テーブルの周りでは若者達が無人の椅子のあたりに向かってうなずいているだけで何も起こらない。報道陣は何か聞こえるのではと耳をすますが何も聞こえない。いつの間にか記者会見場は静まり返っていた。 「マイクはどうした?」  記者の一人が声をあげると、会場がザワつき始める。  静寂から開放されて勇気をえたのか別の記者が叫んだ。 「誰が教祖なんだ?」  王様が裸に見えているのは自分だけじゃないと気づいた群集と同様に、自分だけが状況を理解できていないわけじゃないと安堵した記者達は口々に叫び出し、会場には怒号が飛び交う。 「誰が話すんだ?」 「誰かなんとか言え!」 「教祖はどこだ!」 「どいつがサコタだ?」  スガヌマは記者達の方をチラっと見て、もう一度中央の空席の方向に向き直る。無人の空間に向かって二、三度軽くうなずいてから、叫び続ける記者達を両手で制して静まらせようとする。  報道陣の怒号がやわらぐのを待ってから、スガヌマは落ち着いた口調でいった。
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