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「サコタ師のおっしゃる通り、心の目で見て、心の耳で聴いてみてください。目の前の雑事にかまけ雑念にばかり囚われているから大切なものが見えないのです。あなた達は大切なものを見ようとせず、大切なことに耳を傾けず、大切な気持ちから目をそらし、大切な人をないがしろにし、大切なものを失い続けている。まるっきり逆なのです、それでは自ら不幸を招きよせているようなものです」
いくら怒鳴っても教団側を苦しめることができていないとやっと気づいた数人の記者が周囲の記者たちを黙らせようとする。しかしヒートアップした記者達はなかなか静まらない。
あらかじめ話そうと準備していたことをひと通り話し終えたのかスガヌマが黙る。それでも記者たちはまだ怒鳴るのをやめない。怒鳴り散らす中年の報道陣を小鳥教団の若者達は穏やかな表情で見守っている。
怒鳴っても怒声を浴びせかけられている若者たちの側にダメージを受けている様子がないと記者たちの多くが気づき始め、会場は徐々に静けさを取り戻す。声が通るくらいに会場が落ち着いた頃合いで、左端の椅子に座った若い女が駆け出しの舞台女優みたいに大げさな抑揚をつけて話し始めた。
「みなさんがこんな話を信じられないって思うお気持ちはよく分かるんです。私も最初は同じように思っていました。いったいこの人達は何を言っているんだ? って。ふざけているのか? それとも頭がおかしいのか? って、そりゃ私だってそう思ってましたよ」
やっと話が通じそうな人を見つけて、報道陣はにわかに色めき立つ。新聞社や報道番組の記者達もワイドショーのレポーターやゴシップ誌の記者も、皆がこの比較的まともそうな女性に何から順にどう質問するべきか考えているのだろう。報道陣からの期待に満ちた視線を一身に集めたまま女は言葉を続けた。
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