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「見えない人の話をきくなんて、そんなバカなって思ってました。そんなことを信じてる人達がこんなにたくさんいるなんてどうかしてるって思いましたよ。でもね! ホントなんです」
女は突然、何の説明もなしに結論だけをドンと示した。論理的に説明しようとしない相手のあげ足を取ることはできない。なぜならそこには突き崩すべき論理的破綻が存在しない。論理的であろうとしない巨大な破綻だけを提示されて、返す言葉を見つけられない報道陣は絶句する。百人以上の報道陣の熱気に満ちた記者会見場が、熱気に包まれたまま静まり返る。
そのスキをつくようにスガヌマが早口でいった。
「サコタ師のお姿は見ようとしなければ見えません。サコタ師のお話はきこうとしなければきこえません。サコタ師がお話を続けても話をきこうとする人がいなければ意味がありません。本日の会見はこれで終了とさせていただきます」
スガヌマは立ち上がり中央の椅子を引いて女と共に、教祖の背中に手を添えるような仕草で虚空に手を添えて部屋から出ようとする。我に返った報道陣が慌てて出口付近へと殺到する。テーブル脇にいた男達が教祖を守るために両腕を広げてスガヌマ達と報道陣の間に割って入った。小鳥教団の若者達は腕を広げてひとつの輪になり、輪の外側を向いて中央の教祖がいるとされる空間を守りながら怒号を浴びせる記者達をかき分けて記者会見場から出ようとする。記者やレポーター達はマイクをスガヌマの顔に押しつけながら後を追う。何人かは中央の空間にマイクを向けて見えない教祖に触れようとするが何かにあたる様子はない。報道陣をかき分けて若者達は会場から去っていった。
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