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「その約束はたいてい守られない。最初から保険をかけてるだけでそんな約束を守るつもりはお互いにないでしょ。それと同じで、愛なんて立派な言葉で飾ってますけど、実際には『私の幸せのために私はあなたを裏切るかもしれないけど、私の幸せのためにあなたは私を裏切らないでね』って、お互いにそう言いあってるだけに見えるんです。刑事さんだって家族を愛してると思ってらっしゃるでしょうけど、若くて綺麗な女性に誘惑されたら奥さんを裏切ることはあるわけでしょ。自分は奥さんを裏切ることはありえるしそれは密やかな幸せのひとつとして必要なものだけど、奥さんが自分を裏切ることはあってはならないしそんなことは許せないって思ってませんか?」
長身の刑事が反論しないのを確認してから続ける。
「奥さんの方も同じようなことを思ってるんです。自分は夫を裏切ることはありえるしそれは密やかな幸せのひとつとして必要なものだけど、夫が自分を裏切ることはあってはならないしそんなことは許せないって。お互いにそんな勝手なことを思いあってる関係をダマしダマし長く継続させることに意味があるとは思えないでしょ」
「君はかわいそうな子や。人を信じることができへんのやな」
長身の刑事が冷たい口調でいったがミチオは気にせず話し続ける。
「人には、自分と違う何かを信じてる人が愚かに見えるんです。刑事さんがいまボクに感じてる感情がまさにそれです。同じ理由でボクは、愛なんていうご都合主義的なものを信じてるあなたに同じような感情を抱いてます」
「君の信仰と一緒にされたら困る! 愛はあるんやから! そら浮気もするしお互いに不満もあるけど、それでもやっぱり妻を愛してる。それが分からん君は不幸な子なんや!」
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