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「愛という言葉の優れているところはその意味が曖昧なところです。だから、必要に応じて意味を拡大させたり縮小させたりすることができる。愛の意味を拡大させた方が自分の人生の価値が高まるように思えるなら拡大するし、愛の意味を縮小した方が自分の人生の意義を守ることができるようなら縮小する。愛という言葉の意味を極限まで小さくしたら、そりゃ愛はありますよ、どこにでも。でもそれでは何の解決にもならない。愛を信じる人は自分の人生に愛があると信じていたい。思い通りの人生ではないし満足いかないことも多いけど、最低限必要な愛があるからいいんだと信じていたい。そう信じるために愛の意味を都合にあわせて縮小してるだけなんです。あなたが言ってるのはそういうことです。ボクはなにもあなたの信仰を否定したいわけじゃないんですよ。ただあなたにボクの信仰がバカバカしく見えているように、ボクにはあなたの信仰がバカバカしく見えてるってことです。そして信教の自由を守るというのは、バカバカしく見える他人の信仰を否定しないということなんです。あなたが愛を否定されると不快なように、ボクたちはサコタ師の存在を疑われると不快なんです。どうですか、ボクの言いたいこと、少しは分かってもらえましたか?」
長身の刑事は不愉快そうな表情でミチオを見たまま大きく息をついた。
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