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 薄暗くて静かな留置所に制服姿の警察官が鍵をあける音が響く。格子状の扉が開くと、三十代のがっしりした刑事がミチオを留置所の中に押しこんだ。 「ホンマのこと話す気になるまでこっちはなんぼでもつき合うから、覚悟しとけよ」  威圧的なことをいってみせるがその口調はそれほど強くない。ミチオが中に入ると、制服の警察官が扉を閉じて鍵をかけた。  所轄の刑事にも優秀な人はたくさんいるだろうから、こんな見よう見まねでやってる感じの刑事達にあたったのはミチオにとって幸運だといえるだろう。おかげで取調べもそれほど辛くはない。むしろ疲れているのは刑事達の方だろう。そうは思うが、こうやって鉄格子の中の狭い空間に座っているとやはり気が滅入る。ミチオは他人ごとみたいに考える。狭い取調室と狭い留置所の往復にいったい何日くらい耐えられるものだろう? 微罪での別件逮捕だからそれほど長く留置できないはずだとは思うが、何日耐えれば終わるのかをミチオは知らない。知らないことは考えても分からない。ミチオは考えるのをやめて寝ころんだ。布団は薄く、床は固くて冷たい。精神的に追い詰めるための仕掛けだけはよくできているなと思いながらミチオは何度も寝返りをうつ。
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