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「あ……あのうっ……」
「聞こえなかったのか? 持ち去れと言っている」
「夕食ですが、少しも食べないのですか?」
そのとき、男が初めてぎろりと瞳孔を動かした。
「君は誰だ……看守ではなさそうだが」
「いいえ。私はただの下働きの女です」
「下働きがなぜここにいる」
「私はマリアと申します。今夜から、あなたの配膳の担当になりました」
マリアに顔を向けることなく、男は無関心を絵に描いたように軽く微笑み、ふ、と鼻を鳴らした。
「この城の役人は馬鹿なのか。囚人の独房に女を寄越すなど」
「ですから。私はあなたの食事の担当です。食事係に男も女もありません」
「とにかく今は要らぬ。俺のために足を運んでくれたのなら申し訳ないが、下がってくれ」
——アレッタ様がおっしゃっていたように、夕飯も食べないつもりですね?!
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