月明かりの下で

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 そう思えば俄然、どうにかして食べさせたくなる。 「お昼も少ししか食べていないのでしょう? それではお腹がすきます」 「……」 「夜中にお腹が鳴ってしまいますよ?」 「余計なお世話だ」 「それに……。食べずに痩せてしまっては、せっかくの美丈夫が見る影も無くなってしまいます」  それまで静かに座っていた男が、ゆっくりと立ち上がる。そのまま無機質な床を素足で歩き、鉄格子を挟んでマリアの目の前に立ちはだかった。  近づけば男は思いのほか背高く、ドン! と唐突に男性らしく筋肉のついた二の腕を鉄格子に押しつければ、二の腕の下からマリアを威圧的に見下ろす形になった。 「何度も言わせるな。今は要らぬと言っている」  男の剣幕にはさすがに怯んだが、マリアも負けてはいない。すっくと顔を上げ、男の秀麗な面輪を凛と見据えた。 「お言葉ですが……! 食事は大事です。人の心と身体を作るものです。おろそかにしてはいけないものです。食べたくとも食べられない人たちだっているのです。食べるものがちゃんとあるのにそれを無碍にするなんて……! 殺人罪よりも罪深いことだわ」  形の良い眉根をぐっと寄せた男の、刺すような薄いブルーの眼差しが僅かに揺らぐのが見えた。  先ほどまで穏やかだった声色が変わる。その場の空気をも彼の気迫に震えるほどに、冷たく、低く。 「何だと……?」
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