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信じたくなかったけれど、どうやら空腹が悲鳴を上げたらしい。
背すじが縮こまる思いで男の背中を目で追う。だけど男が振り向く様子はない。
——よ、良かった……。お腹の音、聞こえなかったみたい。
マリアも花の十七歳。もう子供じゃないし、乙女心だってちゃんとある。いくら囚人だとはいえ、この美しい男にお腹の音を聞かれるなんて恥ずかしい!
「こ……格子扉を開けますね。食事は、ここに置いておきます」
配膳のために作られた四角い格子扉の向こう側に小卓と椅子がある。男が食べても食べなくても、マリアの仕事はこの小卓の上にトレイを置くことだ。
「何か腹に入れた方がいいのは君じゃないのか?」
いきなり飛んできた声にヒヤリとした。慌てて見れば、背中を向けていた男がいつの間にかこちらに視線を向けている。
「さっきの、き……聞こえたのですか?!」
返事の代わりに男は拳を口元にやり、コホッと小さく咳払った。
「ぁ……お皿を割ってしまって。それで今夜は食事抜きなんです」
——って、私ったら。何を丁寧に説明してるのかしら!
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