取り引き

4/6

2603人が本棚に入れています
本棚に追加
/573ページ
 昼食を摂ってから、ゆうに半日が経っている。空腹は否めなかった。    ——なんだか変なことになっちゃったけれど。食事を分けてもらえるのには感謝しなくちゃ……。  マリアが格子扉の奥のトレイを自分側に引き寄せようとしたとき。  突然に男の腕が伸び、トレイを鉄格子の外側に突き飛ばす。その拍子に深皿が飛んでマリアのそばの床にスープが飛び散り、足元にパンが転がった。 「な……っ、何を?!」  驚きすぎて言葉を失ってしまう。なのに男は至って涼やかだ。マリアが焦るのを見て、面白がっているのだ。 「すまない、手が滑った」  ——わざとだ。わざとトレイを押したんだ。 「……どうしてこんな事をっ」 「与えられれば、君はどんなものでも食べるのだろう?」  そう言って顎をしゃくり、床に落ちたものを指し示す。 「そのパンとスープは俺が君に与えたものだ」  ——スープ?  男は確かに言った、「パンとスープ」。  足元に転がったパン、そしてスープは……
/573ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2603人が本棚に入れています
本棚に追加