2602人が本棚に入れています
本棚に追加
/573ページ
一片を喉に通せば、また千切って口元に運ぶ。冷たい床に膝をついたまま、マリアは静かに咀嚼する。
男は目を細め、その様子を見つめていた。
——スープだって。これは囚人のために作られたのじゃない。まかないの残り物だとしても、厨房のシェフが腕を振るったものだと私は知っている。
厨房にいたマリアは、このスープが作られるところを目の当たりにしたのだ。
マリアが好きな優しいシェフ、ノルマンの笑顔が無惨に散らばったキャベツと重なった。
いたたまれなくなって目頭がじんわり熱くなる。
この男の嫌がらせが悔しいんじゃない。人の心がこもったものを乱雑にされたのが辛いのだ。
パンを食べ終えると、今度は床に両肘をついた。震える両手を地面に向かって差し伸べて、マリアは目を閉じる。
——大丈夫……。ただ床に落ちただけ。食べる物には変わらない。
華奢な白い指先が地面に付くかつかないかの、そのとき。
「おい、待て」
マリアを眺めていた男の、碧い瞳が揺らめいた。
最初のコメントを投稿しよう!