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紳士的な囚人
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湯浴みを済ませて自室のベッドに腰をかければ、今日一日に起こったことがじんわりと胸の内にのしかかる。
掃除、洗濯、厩番と持ち場を転々としてきたけれど。失敗を繰り返して厨房を追い出された挙句、今度は殺人容疑のかかった囚人の配膳係だ。食べない者に食事を運ぶなんて、マリアにとっては最悪の持ち場だと言ってもいい。
「囚人って、どんな奴だった?」
マリアの隣のベッドに就寝の準備を済ませたルームメイトのクロエが腰をかけ、興味深げに尋ねた。
「地下牢に行くなんて考えただけでも恐ろしい! あそこは看守の柄も悪いって聞くわ。マリア、手を出されなかった? 囚人と目を合わせるの、怖かったでしょう?!」
「それがね……あんまり囚人っぽくないの」
「囚人ぽくないって、それはどういうこと?」
「う〜ん」
収監されてから十日以上、もちろん風呂には入っていないだろうし、髪も髭も伸びていたけれど。特徴のない地味な服装と風貌に醜悪さはなく、それどころか、月光の下で見た彼には平民らしからぬ孤高の気品すら感じた。
「何て言うか——綺麗だった」
「はっ?」
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