紳士的な囚人

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「情報通の仲間に聞いたんだけど。あの囚人、捕まった時からおかしな事ばかり並べ立ててるそうよ? 看守たちの間では狂人だとか言われてるって。握ってた剣にべっとり血がついてるのに、これは冤罪だとか、自分は知り合いだから宰相様を呼べだとか」 「宰相様って、あの宰相様……?」 「ええそう! 私たちメイドの憧れのまと、ロベルト様っ。それにね、あの囚人ったらあろうことかロベルト様のことを呼び捨てにしたらしいの……ロベルト・バルドゥを呼べ! って。 ほんっと失礼な男よね? 西の砦近くので人を殺して捕まった男が、ロベルト様の知り合いなわけがないじゃない。そんなの誰も信じやしないわよ」  そもそも、国領は狭くウエストエンパイア(西帝国)のわずかな土地の上で数百名の農民たちが幾つかの集落を囲むように暮らし、平和だけが取り柄だとも言われるこの小さな国で殺人事件とは穏やかではない。 「クロエ。あなたは捕まっている彼のこと、見たことがある?」 「ふふっ! そんなのあるわけないじゃない」 「そう……よね」  捕まってすぐに投牢される囚人など、わずかな限られた者たちの目にしか触れやしない。クロエの想像上はきっと、彼は狂気の悪人そのものだ。 「もしもクロエがあの人と会って話しても、さっきと同じことを言うのかしら」 「もちろん言うわよっ。だって人殺し容疑のかかった囚人なのよ?」  怜悧な眼光は狂人のものとは思えない。  マリアはむしろ、あの男が訴える話に真実味を感じてしまうのだ。  ——もしも冤罪だったら……。 それにあの人が本当に宰相様の知り合いだったら……?
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