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それを証明するすべは無いのだし、仮に男の言う通りだったとしてもマリアにはどうする事もできない。それに一つ気掛かりなことがあった。
地下牢を出るとき、あのニヤけた看守がマリアを呼び止めて言ったのだ。
『あいつぁ明日から拷問にかけられる。あんたも覚悟して来なよ。
やってもやってなくても捕まった時点でハイお終い! けどよ、万が一にも冤罪だったら警吏の奴らは上からお咎めを受けちまうからな。
罪を認めさせるまでは殺せねぇってわけだが、奴がこのまま口を割らなきゃ死罪になる前にコト切れるかも知れんぞ?
まぁ、それまでぜいぜい優しく世話してやれや。』
キヒヒ! と最後に笑った看守の眼には棘があった。
拷問にかけられるというあの男——。食事を運ぶだけの自分に、いったいどんな『世話』ができると言うのだろう?
——それに『覚悟して来なよ』って……。
「でもさ、食事を届けるのって昼と夜の二回だけよね。あとの時間は何して過ごせばいいか、メイド長様から何か聞いてる?」
「そうよね、言われてみて気が付いたわ。さすがに何もしないってわけにはいかないでしょうし」
——明日の朝、アレッタ様のところに行って聞いてみよう。
「じゃあ明日も頑張ってね。おやすみ、マリアっ」
「ええ、クロエも。おやすみなさい」
灯りが消され、夜の闇と静寂の時間がやってくる。
——拷問って。あの人、何をされるの……?
拷問という言葉はただそれだけで恐ろしい。
寝具の中に潜り込み、ぞわりと肩を撫でる恐怖心のなか、マリアは静かに目を閉じた。
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