マリアに出来ること

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マリアに出来ること

 カツン、カツン——。  右手に手燭、左手には木箱を抱え、マリアは地下牢の階段を降りていた。    暗鬱な牢には似つかわしくないメイド服。エプロンの白いフリルと、お団子に結えた髪に付けたリボンがひらひらと湿気を帯びた風になびく。  昨日は真っ暗だったけれど、午後二時を過ぎた今はどこからか差し込んだ太陽の光が壁に反射してわずかばかり明るい。    今朝、メイド長の所に向かえば。 『あなたの仕事は午後からです。それまでは自室で自由に過ごしなさい。王宮以外の場所になら、気晴らしに外に出るのも許します。囚人への配膳ですが、今日から午後六時の一度のみです。昼食は必要ありません。あなたのような者には少しきつい仕事になるかもしれませんが、頑張れますか?」  頑張れますか、と言われても。そんなものはやってみなければわからない。それに午後から地下牢で何をすればいいかさえ、まだ知らされていないのだ。  ——午後まで自由に過ごせて、午後の仕事が終われば夜の配膳までまた自由時間だなんて。いくらキツい仕事でも、ちょっと甘やかされ過ぎじゃないかしら?  一度足を運んでいるので、地下牢でこれから向かうべき場所はわかっていた。  ——まずはあの看守のところに行って仕事の内容を聞かなくちゃ。  看守部屋を覗けば、昨日と同じ男が狭い部屋に置かれた机に両足を上げて組み、口笛を吹きながら本をめくっていた。何やら妙に機嫌が良さそうだ。  ——囚人の拷問って、もう終わったのかしら……。 「あのう」  マリアが声をかければ、おうっ! 来たか。と笑顔を向けた。
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