マリアに出来ること

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 よっこらしょ。と顔を上げ、本を置いてあふぁ〜と大きく伸びをする。それからごそごそと立ち上がり、足元の錆びた鉄のバケツと黒ずんだブラシを取り上げた。 「お前さんにはちょっと重いかも知れんが。仕事だからな、まぁ頑張れや。あっちの端っこの水路から水を汲み上げて、このバケツに入れて持って行きな」 「バケツにお水を入れたあとは、何をすればいいのですか?」 「はん? 何をって、掃除だよ、掃除」 「お掃除って、どこの……」  ——まさかの、地下牢のお掃除?! 「決まってるだろ。お前さん担当の、あの男んとこさ。まあ今日はだから、あんま汚れてねぇけどな」  (いや)な予感が唐突に胸を突き上げる。にわかに動揺し、マリアは目を泳がせた。 「なんだよ、聞いてなかったのかい? それでこの仕事が勤まるのかねぇ!」 「囚人の……独房を、わざわざお掃除するのですか」 「奴つぁ、しぶとそうだからなぁ。まぁ少なくとも数日は、お前さんは独房の掃除をすることになるだろうよ。牢屋の掃除なんざ俺も馬鹿馬鹿しいとは思うんだが、慣習なんだから仕方ねぇ。なんでもこの地下牢につい最近まで血の臭いを嫌う狂った上官がいたんだと!」  ぶはは。と下品に笑い、看守は再び机上に両足を乗せる。
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