マリアに出来ること

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「終わったらそこにバケツ置いて帰っていいから。なぁに安心しろって。近寄ったってさ。だがエリア入口のメインキーは、いつもちゃんと閉めといてくれよ?! ここじゃ何が起こるかわかんねぇからな」  言葉を無くすマリアに、看守は笑いながらとどめの一言を浴びせた。 「囚人の身体にはが、この先もしも奴がコト切れてそうだったら教えてくれや」 「どうして……笑っていられるの? 人の死を、そんなふうにっ……」 「はっ、お前さんは今どこに立ってんだよ? 地下牢って名の地獄なんだぜ、ここは!」  手燭は地下牢の入り口に置いたが、ブラシと小箱を抱える左手がふさがっている。片手で持つ水入りのバケツはとても重い。  小窓からわずかな太陽の光が差し込む独房は、昨日と変わらずしんと静かだ。その静けさが、マリアの不安をいっそう掻き立てた。  床に張り付きそうになる重い足を一歩ずつ前に進めていく。奥から二番目の、あの男がいるはずの独房。  おそるおそる、覗き込む——。ぐったりと床に横たわる男の身体を見て、マリアはごく、と生唾を飲み込んだ。  ガチャリ。  独房の鍵を開ける。  看守が言ったとおり気を失っているらしい男は、動けそうにないけれど……恐ろしくないと言えば嘘になる。少しばかり紳士的な態度を見せたとはいえ、この男を信用するまでには至っていないのだから。
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