涙の理由(2)

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 ジルベルトの親指がマリアの頬を滑り、光る涙の粒を拭う。  マリアはびくんと、ふれられた頬に緊張を走らせた。 「あろうことか、私は……嫉妬したのです。あなたと話すラムダさんが、羨ましいと……っ」  嫉妬。  それは後宮においても頻繁に聞かれるもので、ジルベルトが嫌う言葉だ。  なのにマリアが発すれば、むしろそれを愛おしいと感じてしまう。  ——マリアと出会うまでは知らなかった。  女嫌いだと自分でも認めていたこの俺の中に、『愛おしい』なんていう感情があったなんて。  その愛おしいものの喜ぶ顔が見たいと、これほど強く望むなんて。  ラムダを抱える自分を見て、マリアはラムダに嫉妬したと言っているのだ。 「あなたが、今、想像なさった通りでございます。第三皇子殿下……私のような者がこんな想いを抱く事など、許されないとわかっています。それでも、私はあなたが……好きなのです。大好きなのです……。許されない感情を抱えたままでいるくらいなら、遠ざけてもらえて良かった。私は……皇城を出て行こうと思います」  刹那、ジルベルトは背筋が甘く痺れるような感覚を覚えた。  顔面がかあっと熱くなる。考えるよりも早く身体が動いて、目の前の愛おしいものを腕の中に閉じ込めていた。  驚いたマリアが身体をこわばらせたが、ジルベルトは構わずに抱きしめる腕の力をぐ、と強めた。
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