マリアに出来ること

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 きれいな背中からは想像できなかったが——身体の表面はほんとうに酷いものだった。  太い鞭で打たれたのだろう。ところどころ衣服が破れ、その下にある皮膚から滲み出た血液が千切れた着衣に紅い染みを滲ませている。  胸も腕も足も……同じような状態だった。  ——見た目は酷いけれど、傷は深くなさそう。  胸元に触れれば思いのほか固い。鍛え上げられた体躯のおかげで、皮膚に鞭が食い込むのをかろうじて防いでいるのだろう。    胸元の衣服を開き、傷口に清潔な木綿のハンカチに含ませた消毒液をそっとあてていく。そうするあいだも気になってしまうのは、膝の上にある男の顔立ちだ。  意志を持つ精悍な眉の下、しっかりと伏せた長い睫毛は翼のようで——。その下に潜むあの青い瞳を思えば、年頃のマリアだって胸がそぞろに騒めいてしまう。  ——私ったらこんな時に不謹慎。この人のお顔が整いすぎてるんだものっ。でも……綺麗なお顔にも鞭がかすってしまったわね。後で頬の傷も消毒しましょう。  そのまま消毒を続けようと、マリアが男の胸元をごそごそまさぐっていると。  突然伸びてきた大きな手のひらで、手首をがっしりと掴まれた。 「ひっ」  驚いてのけぞり、反射的に手を引こうとしたけれど。男の腕の力は強く、マリアの抵抗などびくともしない。  視線を下に向ければ……閉じていたはずの男の目蓋が()いていて、翼の睫毛の下の(あお)い瞳がマリアをじっと見上げている。 「きゃぁ!」  ——やだ、まさか目を覚ますなんて?! あの看守、今日は動けないって言ったじゃないっ。 「……さっきから俺の胸をいじって何をしてるんだ?」 「なっ、何をって。あなたの傷の消毒ですけど……っ。いけませんか?」 「消毒……? いや……君の胸が、俺の顔にあたっている」
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