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そこに芽生えたもの
男が気を失ったままだと油断していたのと、傷口の消毒に必死になっていたのとで、自分の胸のことなど意識してなかったのだ。
「なっ……!」
「俺の方は問題ないが。君の名誉のために伝えたんだが?」
驚いたのと慌てたのとで膝を引けば、ゴッ! と鈍い音を立てて男の頭が床に落ちた。
「そ、そんなふうに話す元気があるなら。さっさと起き上がってくださいっ」
「ッ……」
はずかしさで慌てるマリアだが、見れば男は辛そうに眉をゆがませている。さっきまでマリアの腕をつかんでいた傷だらけの腕が、ごとりと床に転がった。
「ゴホッ……」
咳き込んだ男の唇から血痰が吐かれる。身体が辛いのはどうやら間違いないらしい。
「私ったら、慌ててしまってごめんなさいっ」
もう一度、男の頭部を抱え直して膝の上に乗せる。汚れた口元をハンカチで拭ってやれば、ややあって男の呼吸はようやく落ち着いた。
「大丈夫、ですか……?」
「この有様を見て、大丈夫だと思うか?」
「 ぅ…… 」
マリアが不安げに瞳を揺らせば、男がふっと微笑む。
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