そこに芽生えたもの

1/4

2605人が本棚に入れています
本棚に追加
/573ページ

そこに芽生えたもの

   男が気を失ったままだと油断していたのと、傷口の消毒に必死になっていたのとで、のことなど意識してなかったのだ。 「なっ……!」 「俺の方は問題ないが。君の名誉のために伝えたんだが?」  驚いたのと慌てたのとで膝を引けば、ゴッ! と鈍い音を立てて男の頭が床に落ちた。 「そ、そんなふうに話す元気があるなら。さっさと起き上がってくださいっ」 「ッ……」  はずかしさで慌てるマリアだが、見れば男は辛そうに眉をゆがませている。さっきまでマリアの腕をつかんでいた傷だらけの腕が、ごとりと床に転がった。 「ゴホッ……」  咳き込んだ男の唇から血痰が吐かれる。身体が辛いのはどうやら間違いないらしい。 「私ったら、慌ててしまってごめんなさいっ」  もう一度、男の頭部を抱え直して膝の上に乗せる。汚れた口元をハンカチで拭ってやれば、ややあって男の呼吸はようやく落ち着いた。 「大丈夫、ですか……?」 「この有様(ありさま)を見て、大丈夫だと思うか?」 「 ぅ…… 」  マリアが不安げに瞳を揺らせば、男がふっと微笑む。
/573ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2605人が本棚に入れています
本棚に追加