始章・マリアの新たな仕事———*

1/6

2603人が本棚に入れています
本棚に追加
/573ページ

始章・マリアの新たな仕事———*

「ちょっとマリア……また皿を割ったのかい?! 今週に入って三度目じゃないか……」  厨房の床に散らばる陶器の破片とともに、厨房長の女のけたたましい罵声が飛んだ。  申し訳ありません、と慌てた様子で頭を下げるのは——この国の者には珍しい、ストロベリーブロンドの髪色とアメジストの瞳を持つ下働きのマリア。年齢はせいぜい十七、八といったところだろうか。 「まったく、洗い物もろくに出来やしないだなんて。ここはもういいから! アレッタ様のところに行って、別の仕事を回してもらいな。ああそれから。お皿を割ったぶん、今夜のあんたの食事は抜きだよ!」 「……はい」  マリアは皿の破片を拾いながら小さく返事を返す。彼女の隣にすっとひざまずいたのは、使用人仲間でルームメイドでもあるクロエだ。  破片を拾うのを手伝いながら、クロエはマリアにそっとウィンクを送る……気にすることないって。  一年ほど前にウェイン城に流れ着いてからというもの、マリアは下働きの使用人として持ち場を転々としている。そして数日前、この(まるで戦地のような!)厨房に配属になった。  友人の優しさは身にしみて嬉しかったけれど、何よりドジすぎる自分が情けない。  ウエストエンパイア(西帝国)の端っこにあるこのウェイン城に身を隠し、使用人として働き始めてからすでに一年が経つというのに……どこに行っても、何をしてもうまくいかないのだ。
/573ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2603人が本棚に入れています
本棚に追加