後悔

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「下級メイドが我等に何の用だ。急いでいる。早急に述べよ!」 「あのっ、あなた方はこれから、宰相のロベルト様にお会いになるのですか?」 「ああ、その通りだ。それがどうした?」 「お話したいことがあるのです。西の砦で、殺人の罪を着せられた囚人のことで……っ」  二人の警吏は互いに顔を見合わせた。一人が目を閉じ、呆れたように首を振る。 「囚人だと? 我らは急いでいると言ったろう。つまらぬ事で引き止められては困る」 「でもっ、彼は幼なじみだと……ロベルト様を呼んで欲しいと言っているのです。そのことを、ロベルト様にお伝え願いたいのです!」 「は……。気の触れた囚人の戯言であろう? そもそも地下牢の囚人がロベルト様のお名前を口にすることすら穢らわしい」 「でもっ」  マリアの言葉は彼らには届かない。すらりと踵を返し、警吏たちは王宮の開かれた双扉の奥へと消えてしまった。  ——せめて私が、昨日のうちに彼の名前を聞いていたら……。宰相様の幼なじみなら、どこかの貴族か高貴な身分に違いないもの。彼の名前くらい、警吏の人たちだって知っていたかも知れないのに。  せっかく宰相と繋がりのある者と会えたのに。考えれば考えるほどに、男の名前を聞き忘れたことが悔やまれた。  ——今日、彼に会ったら。一番最初に名前を尋ねよう。昨日みたいに楽しくて、うっかり聞き忘れてしまう前に……。  昼食を済ませ、自室で思案を繰り返す。時計を何度も見ながら二時が来るのを今か今かと待った。  忘れてはいけないのは薬箱、消毒薬と包帯はしっかりと補充した。——今日も拷問を受けたであろう彼の身体が心配だった。
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