薔薇と疑問の香り

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「ん……? なんかジル、俺に怒ってない?」 「ダメよ、ジルったら。引っかいちゃ……!」  黒い礼服の大きな背中が薔薇の茂みの中に見えなくなっても、身体中が岩のように固まって少しも動けないのだった。  今や、亡くなった母親の代わりとなって包んでくれるのは——ジルベルトの微笑みと海のように深い優しさ。  生き地獄だった日々からマリアを救い出し、生き続ける意味を与えてくれたのもジルベルトだ。 「……好きです」  たとえジルベルトの剣の刃にかけられ、命を失うことになったとしても、後悔はしない。  本当ならばあの雪の日に、シャルロワの王族たちとともに失っていたはずの命だった。  ずっと……「許されるかぎり」  そばを離れないと決めたのだ。 「……大好きです」
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