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ふたりが消えてしまったことを、リズロッテは何も気にかけていないように腰をかがめ、木々の合間に身をひそめたまま獅子宮殿の中庭に一歩、また一歩と近づいた。
——殿下も殿下よ。
ガルヴァリエ公爵令嬢とのご縁談が再浮上したというのに、お茶役をはべらせたままにするなんて不謹慎だわ……公爵令嬢だってお可哀想。
皇太子の婚約の話をアルフォンス公爵夫人から直接聞いた時は、正直リズロッテは世界が終わってしまったと思った。絶望で目の前が真っ暗になり、三日ほど寝込んでしまったほどだ。
「夜露を纏った紫の薔薇」とも称される凛とした麗しさと聡明さだけでなく、公爵家の後ろ盾といい非の打ち所がないと言われるあのガルヴァリエ公爵令嬢だ。いくらリズロッテの国の存亡がかかっているからといって、これ以上もうどうすることもできない。
せめて怪しい下女の正体を暴いて功績を上げる……そうすれば、皇太子に国への支援を申し出られるかもしれないという、リズロッテの苦肉の策だった。
——会って問い詰めれば綻びが出て、しっぽを出すかもしれない。
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