失踪事件の結末

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   「ちゃんと、宰相様に届けますから……!」  マリアは自分に言い聞かせるように、ジルベルトの耳元につぶやいた。  ——その前に傷の手当てをっ  ジルベルトの身体を初めて直視したマリアは、再び絶句することになった。ジルベルトの肩から胸にかけて、ぱっくりと弓形の傷口があいている。そこからドクドクと滲み出る赤い液体——。 「何これ……っ。ジル、ベルト……?!」  ——死んでしまう。  直感でそう感じた。彼にはもう、一刻の猶予も残されていないのだと。  ——私の手当てなんてこの傷口には追いつかない! 「助けるからっ……。あなたを必ず、助けるから……もう少しだけ頑張って……」  まるで祈るように、自分に言い聞かせるように。マリアはぐったりとしたジルベルトの頭を胸に抱えこんだ。  ——深手を負った人をこのまま置いて行くのは心配だけれど。とにかく一刻も早く、これを宰相様に届けなければ。  マリアは、心を奮い立たせる。  昨夜、ジルベルトがマリアに見せた穏やかで優しい笑顔。あれは絶対に、人を殺した極悪人のものじゃない。  ジルベルトの胸の傷口に清潔なガーゼを押し当て、包帯でぐるぐると巻く。こんなことは一時凌ぎにすらならないかも知れないけれど、ただただ、少しでも出血を抑えたい一心だった。  独房を飛び出し看守に鍵を押し付けると、地下牢の階段を駆け上がった。無我夢中で王宮に向かって走る。すれ違う人々が何事かとマリアを見遣るが、知ったことではない。  王宮の双扉はいつも通りに開かれていた。  扉の両側には衛兵が立っている。このまま押し入れば確実にここで捕まってしまうだろう。
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