ジルベルトと天使——*

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ジルベルトと天使——*

*——————————  ——また夢を見ていた。    牢を出てからひと月ほどになるだろうか。  ウェインの王宮医師たちの手厚い治療を受けたが、数日間高熱にうなされ生死の境を彷徨った。しばらく朦朧とする日々が続き、その頃から幾度となく同じような夢を見ては、まだ(くら)い明け方に目を覚ますのだ。  切り裂かれた衣服を纏ったジルベルトは真っ白な明るい空間に横たわっている。身体は傷だらけだというのに痛みは感じない。    何もない空間に、淡い桜色の長い髪がふわりと舞った。  大きな白翼を背負った天使がすぐそばに舞い降りる。天使の面輪が見る間に大写しになって、ジルベルトの胸がどくりと脈を打つ。  剥き出しの肩に柔らかな唇が押し当てられれば、痺れるような感覚が口づけられた肩から全身に伝わるのがわかり、同時に身体中がぼうっと白い光に包まれた。  そして光が消えると、不思議なことに傷口のすべてがきれいさっぱり塞がっているのだ。 『……俺を救いに来たのか?』  ジルベルトが問えば、俯いていた天使が静かに顔を上げる。長い睫毛に縁取られたアメジストの瞳が薄らと微笑みを湛え、ジルベルトを見下ろした。  ———美しい人だ。 『君は……』  見覚えのある少女の面影が天使の面輪と重なって、ジルベルトの澄んだ青い()に映る。  艶やかな髪に触れようと指先を伸ばせば——淡い桜色のさざなみは儚く消え去り、目が覚めた。  
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