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「アレッタ様、本当にっ、申し訳ありません。私、ここに置いてもらえるならどんなことでもしますから……。人が嫌がることでも何でもします。ですから、どうか私に仕事をお与えください」
そうねぇ——と、思案を巡らせていたメイド長だが。ふと思い出したように手のひらをパンと叩いた。
「人手は、足りていないのです。マリア。あなたを追い出す気はありません。それに私は期待もしているのです。そこであなたにピッタリの、特別な仕事を与えましょう」
「特別な……仕事ですか?」
「ええ! 世話好きのあなたにはうってつけかと」
突然に笑顔を取り戻したメイド長が、マリアにそっと耳打ちをする。
こそこそと耳に飛び込んだ思いもよらない文言に、アメジストの瞳が大きく見見開いた。
「……囚人の配膳係ですって?!」
「シッ! 声が大きい。実は殺人の疑いのかかる者が西の砦で捕らえられたのです。かれこれ十日にもなるというのに一向に口を割らず、人違いだとの一点張りで。それどころか……」
ここまで言いかけたのに、メイド長はふ、と口をつぐんだ。
「まぁ、地下牢に行ってみればわかります。看守には、私の方から話を通しておきましょう」
「はい……」
よりによって殺人の疑いのかかる囚人に関わるなんて!
いくら帝国軍の殺戮によって血生臭い人殺しの現場を目の当たりにしてきたマリアでも、さすがに腰がひけてしまう。
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