ジルベルトと天使——*

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「———殿下。ご気分は?」  朝から晩までジルベルトの寝台に張り付いているのは、彼の従者であるフェルナンド子爵だ。 「ああ……悪くない」 「今朝は顔色も良さそうだ。体を起こしましょう。すぐに朝食が来ますよ」  騎士団の近衛騎士服を纏ったフェルナンドの力強い腕がジルベルトの背中を起こし、腰元にクッションを添える。整えられた漆黒の前髪から覗く翡翠(ひすい)の双眸は怜悧な光を湛え、彼の主君の顔色に安堵の色を滲ませた。 「まだ目覚めたばかりだ。食べる気がしない」 「少しでも召し上がっていただかなくては、回復が遅れます」  ——ご飯をちゃんと食べていないから、そんな弱気になるのです。  地下牢の独房で聞いた声がふとジルベルトの脳裏に響いた。  —— ご飯はちゃんと食べてくださいね?  彼女の面差しは、夢に出てくる天使によく似ている。 「ご飯……」 「は?」 「いや、何でもない。安心しろ、食事は残さずに食べる」  食べる気がしないと言ったり、残さず食べると言ってみたり。フェルナンドは首を傾げてしまう。
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