ジルベルトと天使——*

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「体力も随分と戻られたご様子。この際だからはっきり申し上げておきましょう。殿下はご自分の立場を十分に理解しておられるはずです。怪しい(やから)を見かけたとしても、一人きりで追うのはもう二度とやめていただきたい」 「ああ、そうだな」 「忍んで帝都を出る時は従者と護衛を最低でも数名、必ず連れて行くと約束してください。たとえそれが、リュシエンヌ王女の情報を秘密裏に探るためだとしてもです。特に……今回のように、貧民窟などという危険な場所に赴かれる時はッ!」 「わかった」 「今日はやけに素直ですね?」 「フェルナンド。今度ばかりは君の言う通りだ、俺が悪い」 「今回の件で殿下に危害を与えた者達に、相応の処罰を与えましょう」 「君は今俺が言ったことを聞いていたか? あの状況下では誰もが俺を疑ったろう。捕らえた者も拷問を課した者たちも、ただ彼らの仕事をしたまで。悪いのは彼らに疑われるような行動をした俺だ」  フェルナンドは精悍な眉を歪ませ、やれやれと嘆息する。 「殿下、お言葉ですが。冤罪などあってはならぬ事。今や我が帝国の属国は数十にものぼり、国民は数百万人を超えている。その頂点に立ち、属国の全土を統べる皇太子が死にかけたのですよ?  メイドの娘が殿下の危機をロベルト宰相に知らせていなければ、今頃どうなっていたことか。皇帝陛下が不治の病床に伏される今、帝国は絶対にあなたを失うわけにはいかないのです」 「君に言われなくてもよく理解(わか)ってる。だが——」  フェルナンドに向けられたジルベルトの薄いブルーの眼差しが鋭利なものに変わる。
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