ジルベルトと天使——*

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「まぁ、勝手にされれば良いですが。隠したってどうせすぐにバレますよ」 「それをバレないようにするのが君の役目だろう」 「は……? またそんな無茶振りを」  と、フェルナンドが眉をひそめるも。  ジルベルトはそわそわと落ち着かない。  ——まさか。  これは、殿下のの……?  いいやそんなはずが無いと、フェルナンドの記憶が全力で否定している。  皇太子ジルベルトと言えば。どんな美貌の姫君を目の前に据え置いても、不機嫌な表情のまま愛想笑いの一つさえ見せないと社交界に知れ渡るほど、女性に冷徹無関心な男なのだ。  ——だがもしも殿下が恋に落ちれば。相手がメイドだと言うのが厄介事ではあるが、『皇太子は生まれながらに恋心という感情が備わっていない』という定説が覆されるかも知れん。  少年の頃より皇太子のそばに仕えて十数年。  二十三歳の主君が初めて見せる表情に、ジルベルトよりも三つ年嵩のフェルナンドは密やかに歓喜の気持ちを抱くのだった。 「そのマリアとやら。ウェイン城を追放されたそうですよ」  栗色の巻き毛の前髪から覗くヘーゼルの瞳を悪戯(いたずら)に煌めかせ、ジルベルトの寝室に入ってきたのは、ジルベルトよりも年若そうな青年。  漆黒の礼服の胸元に鷲の紋章を形取った金のブローチを掲げているのは、アスガルド帝国における大貴族の証だ。
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