マリアの好きなひと

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 ——このまま誰にも気付かれずにいたらどうしよう  とうとう叫ぶのを諦めて、湿った土の上に座れば——薄暗い井戸の底に、ぼんやりと青い月明かりが届いている事に気がついた。  ふと見ると、井戸の底だけじゃなく自分の足や手のひらも青白くぼんやり照らされている。  井戸の壁を背にして座り、マリアは小さく切り取られた丸い空を見上げた。  ——そういえばも、こうやって月を見上げていたな。  寂しさと不安、恐怖、もどかしさ。  牢の中にいたジルベルトもきっと、井戸の底のマリアと同じ気持ちを抱えていたはずだ。  ——私を見ていてくれるのは、お月様だけですね。  ジルベルト。  その名はこのひと月と少しのあいだ、マリアが必死で心の奥底にしまいこんで封印してきたものだ。  ——ジルベルトはもっと辛い環境だった。  誰にも頼ることのできない不安と死への恐怖……絶望。それに、傷ついた身体は痛くてたまらなかったはずよ?   彼に比べたら、井戸に落ちたくらいどうってことないわ……!  そう思えば、マリアの胸の内を支配していた不安が少しだけ和らぐのだった。 「……ねぇ……ジルベルト。あなたは今頃、どうしていますか?」
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