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「あの囚人の世話役として、最初の仕事をあなたに与えます。早速ですが、あの者に食事を届けて頂戴。囚人の食事は一日二度だけ。食の恩赦を受けておきながら、あの者はほとんど口にしないそうですよ? あなたのような若い娘が行けば、あの男の頑なな態度も変わるかも知れません」
——女が行けば態度が変わる? そのひと言で怖さが増しました。
「……承知、いたしました。こんな私にも仕事を与えてくださって有難うございます……アレッタ様」
丁寧に頭を下げてからすごすごと踵をかえすマリアの背中を見届けながら、メイド長は肩を落とした。
「あの囚人。自暴自棄になっているのか看守にまで暴力を振るい、狂人のような戯言を繰り返すと聞く。
さて……マリアがあの者にどう接するのか。今まで女を世話役に使った事もあったが、拷問が始まれば三日と持たなかった。マリアもすぐに弱音を吐くのか、案外うまくやるのか。しばらく様子を見るとしましょう」
*
地下牢へと続く薄暗い階段は古びた燭台が点々と灯っているだけで、周囲はひどく暗い。足元を取られないよう、マリアは用心深く足を運んだ。
暗い場所を歩く時は当然のように手燭を持つのだが、今は両手が塞がっているのでそれもできない。
大切そうに抱える傷だらけのトレイの上には、カビた硬いパンが一つと具がほとんど入っていない冷めたキャベツのスープが無造作に乗っかっていた。
——囚人の食事ってこんな感じなのね。最低限の、とても粗末なものだわ。
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