幸せなぬくもり

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幸せなぬくもり

 ——お腹がすいているはずなのに食べないなんて。体の具合が悪いのかしら?  仔猫の様子を見ていてあげたいけれど、店主はマリアを待ち兼ねているだろう。後ろ髪を引かれながらも、魚の器をそのままにしてマリアは仕事に戻ることにした。  それでも仕事中は仔猫が気になって仕方がない。  ——あの雨をひとりで耐えていたのだからきっと大丈夫、すぐにどうにかなるわけじゃ……っ  必死でそう思おうとするけれど、相手はとても小さな仔猫。マリアは心配でたまらない。  騒つく心に平気だと言い聞かせているうちに、ようやく従業員の休み時間が来た。定食屋が居酒屋へと切り替わるまでの、半時間ほどの休憩だ。  ミアたちに怪しまれないよう(仔猫を拾って来たことが知れたら、それこそ何をされるかわからない)まずは自分の部屋に戻る。  マリアは薄暗い屋根裏部屋を見渡した。  小さな窓が一つ。屋根は板張りではなく、木組が剥き出している。  がらんどうで埃っぽく、手洗い用のスタンドに洗面器と水差しと、枠組みが錆びた小さなベッドと着替えが入っているブリキの箱が一つ置かれているだけ。  それでもマリアが唯一安心できる場所だ。  ——本当はここに連れてきてあげたいけれど、ミアたちがいつまた入ってくるかもしれないし。
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