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雨がうばうぬくもり
屋根裏部屋に帰り寝支度を整えたマリアだが、寝台に入ってもなかなか寝付けない。別れ際に見せた、今までとは違う仔猫の様子が何度も頭をよぎるのだ。
仕方がないので寝具を抜け出し、寝台に座って髪の手入れを始めてみる……腰まである長い髪は、普段は邪魔にならないよう頭のてっぺんにまとめていた。
——そういえば、もう何日もちゃんと梳かしていなかった。
淡いストロベリーブロンドの髪色は母譲り。
艶々だった髪は安価な石鹸を使うことで痛み、ごわついて手触りも悪い。毛先までブラシを通そうとすれば、途中ですっかり絡まってしまう。
いっそのこと短く切ってしまおうか。
ままならない生活の中で何度もそう思ったが、生前の母の長く美しい髪に憧れていたマリアは、母の面影を残すこの髪——まるで母の形見のような——にハサミを入れることがどうしても出来ないのだった。
薄い屋根の上にバラバラと落ちる雨音は激しくなるばかり。
この雨のなか、ひとりきりで寂しい想いをしていると思えば仔猫が気にかかって仕方がない。仔猫が懐いてくれるほどに愛情が増していき、同時に心配も増えるのだ。
——あんなに寂しそうにして。
白銀の被毛に凍てつくようなアイスブルーの眼。高貴な猫ジルベルトは気が強そうに見えて、案外寂しがり屋なのかも知れない。
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