雨がうばうぬくもり

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 これは想像でしかないけれど、人間のジルベルトも同じじゃなかろうか。  高貴な身分を持つ彼は気位も高そうだけれど、心のどこかに寂しさを潜ませていそうな……そんな目をしていた。  ——あれから二ヶ月近く経つのだし、怪我が治っていれば良いのだけれど。  膝の上で心地よさそうに撫でられている仔猫の姿を、マリアの膝に頭を委ねながら介抱されるがままに眼光を緩ませ、時々ほほえみさえ見せてくれたジルベルトと重ねてしまう。  ——あの頃は幼くてよくわからなかったけれど、お母様のお言葉が今となれば心に響きます。  『私の小さなリュシエンヌ。あなたもいつか誰かに恋をして、その人と片時も離れたくないと思う日が来るでしょう。』  ——お母様……この気持ちは『恋』なのでしょうか? もしそうだったとしても、もう会えないかも知れない人を想い続けるのは辛いことです。  命の(ともしび)が消えゆくなか、マリアの母親は残された最期の力をふりしぼり、マリアに伝えようとした。 『よくお聞きなさい。この先あなたは幾度となく人生の壁に当たるでしょう。  どのような境遇であっても、芯を折ってはいけません。  前に進むことを諦めたり、ましてや自ら命を断つようなことなどあってならならないのです。  私がこの世を去っても、リュシエンヌ……どうか忘れないで』    ——仔猫のジルベルトは、神様が与えてくださったギフトに違いない。初めて好きになった人の面影を忘れずにすむように。仔猫と一緒に生き抜く強さを、私がちゃんと持てるように。
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