雨がうばうぬくもり

3/5
前へ
/573ページ
次へ
 枕元にブラシを置くと、ゆっくりと寝台に横になる。  宵闇のまどろみに浮かぶのは、乱れ髪に無精髭を生やした、それでもマリアの瞳の奥に焼き付いて離れない美しい囚人の姿だ。  ——無精髭でも乱れ髪でもないあなたは、いったいどれほど綺麗なの……?  甘美な妄想に浸っていれば、昼間の疲れも手伝ってぬるい眠気が首をもたげてくる。  ゆっくりと閉じていくまぶた——薄い屋根に打ち付ける雨音のなか、マリアは静かに意識を手放した。  *  次の日——仔猫のジルベルトは警戒心をあらわにしていた。  お腹を見せるほど心を許していた仔猫が、だ。  寝床から抱き上げようとしたマリアの手を、仔猫は思い切り引っ掻いた。  マリアも驚いたが、優しく声かけをして身体をそっと撫でれば「にゃー」。  いつも通りの甘えた声を出しはじめる。  抱き上げて膝の上に乗せ、よしよし……と撫で続けていると、マリアの匂いに安心したのか、まるで落ちるようにすうっと眠るのだった。  その次の日、仔猫はマリアを更に驚かせた。
/573ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2629人が本棚に入れています
本棚に追加