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雨が連れてきたもの
———どのくらい探し回っただろう。
黒灰色の雲は雨粒をしきりに落とし続け、視界を白く濁らせる。
先ずは仔猫が元いた場所、数件先の宿屋の軒下を隈なく探したが、そこに仔猫の姿はなかった。あの小さな足で、それも雨の中を……。行ける範囲は限られているはずなのに、周囲をいくら探しても見つからないのだ。
——ジルベルトっ、どこにいるの!?
心配で張り裂けそうな胸の痛みに耐えながら、道路の向かい側を見つめる。宿場街の泥道には水が溜まって人間が歩くのさえままならない。それに時々馬車も通る。
——あの子は賢い子。こんなに危ない道をわざわざ横切るとは思えない。
道路を渡れば土手の向こう側には運河が流れる。
普段はのどかな青い水を湛えているが、梅雨のために増水した川面は泥水の激しい濁流に姿を変えていた。
マリアの心に一抹の不安がよぎる。
——ジルベルトがこの道を横切るとは思えない。でもあの子が平常心を失くしていたら……?!
川の濁流に呑まれる仔猫の姿を想像すれば、マリアの背にゾッと寒気が走る。
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