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急いで道の向こう側へ渡り、草むらを踏めば足元からビシャビシャと厭な音がする。靴の中も水浸しだが、かまわず川べりに向かって進んだ。
「ジルベルトっ、どこにいるの……!? お願いだから応えてっ」
いくら大声で叫んでも、マリアの声は雨とごうごうと流れる濁流の音にかき消されてしまう。
「お願い……応えて……!」
祈るように声を振り絞って叫べば、目頭がじわりと熱くなった。
「ごめん、ね……っ」
——可哀想なジルベルト。
私がもっと早く、あなたがいじめられている事に気づいていたら……。
祈るように両手を胸の前に組み、マリアが項垂れた時だ。
「………みゃ………」
濁流と雨音のなかに消え入りそうな猫の鳴き声が耳に届く。慌てて顔を上げ、辺りをもう一度見渡した。
「………みゃぁ」
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