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今度ははっきりと聞こえる。声のする方へと足を運べば——濁流のすぐそばにある背高い石の柱の上に仔猫、ジルベルトがいた。すぐさま駆け寄り、背を伸ばして震える小さな身体を抱き上げる。
「どうしてこんな高い場所に?! あぁ……ひとりでは降りられなくなってしまったのね……」
ジルベルトが乗っていた柱の上面はとても狭い。少し仔猫が動けばいつ濁流に落下したっておかしくなかった。
「ずっと動かずにいたなんて偉いわ、ジルベルトっ。あなたはやっぱり賢い子ね……!」
よほど心細かったのだろう。仔猫がマリアの匂いを求めて鼻を擦り付けてくる。
マリアは髪が張り付いたずぶ濡れの頬を。仔猫は濡れそぼった頭を——互いの存在を確かめ合うように寄せ合った。
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探し当てた仔猫をもうあの寝床に戻すわけにはいかない。仔猫を屋根裏の自室に連れて行き、冷えた身体を拭いて寝台の毛布にくるんだ。
マリアも自分の髪や身体も拭き、着替えてざっと身支度を整える。
「私が戻るまで、ここで待っていてね……っ」
いつまでもこうしているわけにはいかない。
雨で店の客足が少ないとはいえ、マリアが休憩時間を過ぎても戻らないと店主が怒り散らしているはずだ。
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