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——廊下が泥だらけ……随分汚してしまった。
急いで雑巾を持ち出し、裏口から階段付近の床を拭く。マリアがいる少し先の、店内に続く扉の向こうから聞こえる声はミアのものだった。
「あそこで猫の世話をしてたのはきっとマリアよ、間違いないわ」
猫、と聞いて、耳をそばだてない理由はない。
「でね、あの猫ったら。私にぜんぜん懐かないから、食器を壊してやったの。そしたら……引っ掻いたのよ?! 私の手をっ!」
——ジルベルトのお皿を割ったのはミアだったのね。
怒りが込み上げてくるが、その怒りの感情をぐっと胸の内側にしまい込んだ。
「だ〜か〜ら〜! 向かいの川縁に連れてって、捨ててやったの! あの小生意気な猫を柱の上に乗せてやったのは、この私の優しさだと思って欲しいわ」
——あの子を、捨てたですって……?
もう黙っていられなかった。
溢れ出した怒りがマリアの全身からほとばしる。
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