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突然に店のホールに現れたマリアの姿を店内に居た者たちが一斉に見遣った。雨足が強いからか、その中に客の姿はない。
「マリア……! あんた今まで、どこで何してたの!?」
「いくら暇だからってサボっていいって道理はないからね!」
「あんたがサボるから、余計な仕事が増えたじゃない」
「何よ、その髪っ。びっしょびしょ」
「汚らしい……」
「ろくに働きもしない穀潰しが」
途端、濡れた雑巾がマリアに向かって飛んできた。だがそんなことはどうでもいい。
「なぜ仔猫を川辺に放置するようなことをしたの……。この雨で濁流が溢れて危険だとわかっているのに……」
「店よりも猫の心配? あんな可愛げのない猫なんてどうでもいいわよ」
「客もいないんだし。サボってたぶん一人で掃除でもしな!」
金属製のモップとバケツがひっくり返り、濁った水がマリアの足元に飛び散った。その様子を見てミアたち三人がケラケラと笑っている。
——ああ、お母様。
人の根は善であると教えてくださったお母様。
非力なこの私にも。
悪に寄った人たちを善に戻そうと努めることはできます。
マリアはミアに近づいた。
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